講演会・座談会記録集

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第51回 日本癌治療学会学術集会学術セミナー
滅菌調整タルクによる癌性胸膜炎の癒着療法
医師主導治験:J-TALC

悪性腫瘍の進行期には癌性胸膜炎を伴うことが多く、胸水の貯留は患者の日常生活を著しく損なう。その治療においては、胸膜の癒着により悪性胸水の貯留を防止し、呼吸困難や疼痛の悪化を抑制することが、緩和治療の一環として重視されている。このほど欧米で標準的に使用されている滅菌調整タルクが日本でも承認され、進行癌患者の緩和ケアに寄与すると期待されている。先ごろ開催された第51回日本癌治療学会学術集会学術セミナーでは、滅菌調整タルクの日本での承認の根拠となった医師主導治験で中心的役割を果たした坂英雄氏が、その開発の経緯から試験成績までを紹介した。

(2014年9月作成)

目次

胸膜癒着剤の使用では欧米との間にギャップ

癌性胸膜炎は肺癌、乳癌、リンパ腫、卵巣癌、消化器癌などさまざまな癌の終末期に見られる病態である。胸水の貯留は呼吸困難や胸痛などを来し、患者のQOLを著しく損なうことになる。胸水に対する治療法としては、胸腔穿刺や胸腔排液もあるが、再貯留を来すことが多い。そのため、主な治療法として胸膜癒着療法が行われている。胸膜癒着療法では、胸膜腔内に胸膜癒着剤を投与して胸膜に炎症を誘発し、臓側胸膜と壁側胸膜を癒着させることにより、胸水の貯留スペースを消失させ、胸水の再貯留を抑制する。
胸膜癒着剤の使用をめぐっては、日本と欧米の間で大きなギャップがある。日本ではピシバニール(OK-432)が頻用されてきたが、ピシバニールには発熱や疼痛の懸念がある。また、溶連菌乾燥菌体にペニシリンを添加しているため、ショック、アナフィラキシー様症状を来す危険がある。また、間質性肺炎、急性腎不全などの重篤な副作用を来すことがあり、高齢者では用量に注意する必要がある。一方、欧米で標準治療として使用されているタルク製剤は、テトラサイクリンやブレオマイシンなど他の胸膜癒着剤よりも有効であり、安全性の問題も少ないことがメタ解析で示されている〔Cochrane Database Sys Rev 2004; (1): CD002916〕。

滅菌調整タルクの効果と安全性を臨床試験で実感

J-TALC試験に先立って坂氏は、均一粒子の製剤である滅菌調整タルクを個人輸入して臨床試験を実施した。タルクの投与法については、胸腔内噴霧法と胸腔内懸濁液注入法(スラリー法)があり、いずれの投与法でも悪性胸水の再貯留までの期間に有意差はないと報告されている(Dresler CM, et al. Chest 2005; 127: 909-915)が、この試験では胸腔内噴霧法を採用し、局所麻酔下胸腔鏡で噴霧した。主要評価項目は胸膜癒着効果とし、副次評価項目は安全性とした。
対象は、組織診または細胞診で癌性胸膜炎と確定診断され、胸腔ドレナージチューブによる排液で肺の再膨張が確認され、ECOG PSが0~2で、20歳以上の患者20例。患者背景は、男性10例、女性10例で、年齢中央値は65.5歳(37~86歳)、原疾患は肺癌14例、浸潤性胸腺癌2例の他、乳癌、腎癌、胸膜中皮腫、皮膚線維肉腫が各1例であった。
その結果、有効性評価対象18例中15例(83.3%)は4週以内に胸水再貯留が認められず、4週以内に胸水再穿刺を必要とする症例もなく、臨床的にコントロールできた。タルク噴霧から抜管までの期間の中央値は5日(3~11日)であった。有害事象については、胸痛はグレード1が18例、グレード2が1例、発熱はグレード1が2例と軽度であったが、1例はタルク投与後26日に急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で死亡した。後治療については、20例中8例に化学療法を施行した。予後については、観察期間中央値8.6カ月で、生存3例、死亡15例、不明2例で、生存期間は0.5~34.4カ月であった。なお、タルク製剤では、重篤な副作用としてARDSがまれに発現する。その原因の1つとして小粒子径のタルクが考えられており、近年、粒子径を調整して小さい粒子径のタルクを除いた滅菌調整タルクの使用が推奨されている。
坂氏は、2005年の日本肺癌学会総会において「タルク噴霧癒着療法で高い癒着効果が得られた。疼痛や発熱は軽度であった。ARDSの発症には注意を要する」と、その効果と安全性を報告した。

* ユニタルク投与法はスラリー法のみです。

適応取得を目指して医師主導治験を開始

ただ、この臨床試験に対する国内の反響は少なく、WJOG(West Japan Oncology Group)で滅菌調整タルクによる癒着療法の比較試験を提案しても、適応症がないことを理由に賛同は得られなかった。適応外使用の薬剤を用いて臨床試験を行うのであれば、開発治験以外にはありえないという意見であった。そのため、坂氏は滅菌調整タルクによる癒着療法を諦めかけていたが、国立がん研究センターの藤原康弘氏から2003年の薬事法改正により、製薬企業などと同様に医師自らが企画立案し、治験計画届けを提出して治験を行う、医師主導治験が可能であるとの提案を受けた。
そこで坂氏はその勧めに従い、滅菌調整タルクの医師主導治験へ向けた取り組みをスタートさせた。種々の審査を経て2008年11月に医師主導治験として国内第Ⅱ相試験「滅菌調整タルクの悪性胸水に対する胸膜癒着術の有効性・安全性に関する研究(通称:J-TALC)」を実施することが了承され、2009年6月に6施設が参加して治験が開始された。

主要評価項目は胸膜癒着術後30日の胸水再貯留の有無

試験は、非対照、非盲検、多施設共同臨床試験として実施された。本来なら、日本で標準的に使用されているピシバニールを対照とした臨床比較試験を実施することが望ましいが、滅菌調整タルクが局所の炎症作用に基づいて胸膜癒着を惹起する薬剤であり、人種差は考えにくいこと、欧米で既に承認され、広く使用されていることなどが考慮された。
対象は組織診または細胞診により確定診断された癌性胸膜炎を有する悪性胸水患者。投与はスラリー法で行い、滅菌調整タルク4gを生理食塩液50mLに懸濁し、薬液注入用チューブから胸膜腔内に緩徐に注入した。投与前には、胸腔ドレナージチューブで可能な限り排液し、排液後に胸部X線写真で肺が再膨張し、呼吸困難などの症状が緩和することを確認した。
主要評価項目は、胸膜癒着術後30日(または中止時)の胸水再貯留の有無(有効性判定委員会による胸部X線写真の比較)とし、胸水の再貯留が認められない場合(抜管直後に半胸郭の10%未満の貯留)は有効、胸水再貯留が認められ、症状がある場合は無効とした。副次評価項目は、胸膜癒着術後30日(または中止時)の呼吸困難の程度(グレードで評価)、および胸膜癒着術後30日(または中止時)の疼痛(胸痛)の程度(VASで評価)とした。治験期間は胸膜癒着術後30日までとしたが、その後も60日および90日にも調査研究を実施した。

滅菌調整タルクによる胸膜癒着術の有効率は83.3%

症例の登録は2009年6月から開始され、2010年4月には目標とする30例に達した。そのうち男性22例(73.3%)、女性8例(26.7%)で、男性患者が多く、年齢は平均61.0±12.0歳。原因疾患は肺癌23例(76.7%)、乳癌2例の他、悪性リンパ腫、口蓋癌、胸膜悪性中皮腫、胃癌、腎癌が各1例であった。
主要評価項目については、滅菌調整タルクによる胸膜癒着術後30日(または中止時)で胸水の再貯留が認められなかったのは30例中25例、有効率は83.3%(95%信頼区間0.653~0.944)であった(図1)。

副次評価項目については、呼吸困難なし(グレード0)の患者が胸水排液開始前の4例(13.3%)から、胸膜癒着術後30日(または中止時)には24例(80.0%)と増加し、滅菌調整タルクを用いる胸膜癒着術によって呼吸困難の程度は有意に改善した(図2)。疼痛の程度も、胸水排液開始前に20.8±23.9mmであったが、胸膜癒着術後30日(または中止時)には14.3±24.7mmと、有意に改善した(図3)。

副作用も比較的軽度

臨床検査値異常を含む副作用は、30例中27例(90.0%)に発現した。主な有害事象はCRP上昇、発熱、ALT上昇、便秘、倦怠感などであった。重症度別に見ると、高度3例(10%)、中等度14例(46.7%)、軽度27例(90.0%)で、重篤な有害事象は認められなかった。有害事象の発現時期は、投与後1~7日が26例(86.7%)と多く、それ以降の発現は少なかった。特に、発熱およびCRP増加は投与後1~7日に集中して見られた。本試験では、ARDSは発現しなかった。
坂氏は「滅菌調整タルクの承認により、日本でも世界標準の癒着療法ができるようになった。全てのJ-TALC関係者、治験に参加していただいた患者さんに感謝を捧げます」と語り、講演を終えた。

質疑応答

Q:
国内第Ⅱ相試験(医師主導治験)の対象原因疾患は肺癌のみか。
A:
肺癌が主だが、それ以外の患者もおり、癌種は問わない。タルクは悪性胸水として適応取得した1)
Q:
両側投与はPerformance Statusがよければ行うのか2)
A:
200例ほど行ったが両側投与の経験はない。欧州では良性胸水で両側投与をしているケースもある3)、拘束性肺疾患を起こす可能性が高くなる。
Q:
タルクを再投与するケースは2)
A:
ほとんど経験はない。肺が再膨張する可能性は少なく、あまり効果は期待できない。また、タルク投与無効例にピシバニールを投与しても効果が得られなかったことを経験している。
Q:
投与方法はどのようにすればいいのか。
A:
50mL生理食塩液で希釈して懸濁し、胸膜腔内に注入する。その後、50mLの生理食塩液でフラッシュする。

1)癌種別の有効率は、肺癌82.6%(19/23例)、乳癌100%(2/2例)、その他の癌80%(4/5例)。
2)用法・用量に関する使用上の注意:有効性および安全性は確立していない。
3)ユニタルクの適応は「悪性胸水の再貯留抑制」。

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