講演会・座談会記録集

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座談会
悪性胸水に対する胸膜癒着療法
日本でも滅菌調整タルクが使用可能に

癌性胸膜炎による胸水の貯留は患者の生活の質を著しく損なう。その治療においては、胸膜の癒着により悪性胸水の貯留を防止し、呼吸困難や疼痛の悪化を抑制することが、緩和治療の一環として重視されている。
このほど悪性胸水の再貯留を抑制する胸膜癒着剤として滅菌調整タルクが承認された。滅菌調整タルクは悪性胸水の再貯留抑制効果が高く、有害事象も比較的軽度であることから、進行癌患者の緩和治療に寄与すると期待されている。本座談会では、滅菌調整タルクの適応や使い方などについて専門医5氏に語ってもらった。

(2014年9月作成)

目次

滅菌調整タルクは痛みや発熱が少ない

 このほど悪性胸水の再貯留を抑制する胸膜癒着剤として滅菌調整タルクが承認されました。まず、その背景や経緯について説明させていただきます。
悪性胸水は悪性腫瘍の進行期に見られる代表的な病像の1つで、生活の質を著しく損ないます。悪性胸水を来す主な癌種は肺癌と乳癌で、これらが約3分の2を占めます。胸水は排液しても1カ月ほどで元に戻ってしまうため、再貯留抑制のため種々の治療が試みられており、最も普及しているのは胸膜癒着療法です。
胸膜癒着剤としては日本ではピシバニールが頻用されていますが、欧米ではタルクが標準的に使用されており、大きなギャップがあります。ピシバニールは有効ですが、発熱や疼痛が著しく、溶連菌乾燥菌体にペニシリンを添加しているため、アナフィラキシー様症状、間質性肺炎、急性腎不全などの重篤な副作用を来すことがあります。私はこうした状況に疑問を感じていたときにタルクを使う機会があり、好感触を得たことから、先生方のご協力を得て医師主導治験を実施しました。その結果、胸水の再貯留の抑制(図1)、呼吸困難の改善(図2)、疼痛の軽減(図3)などの有用性を確認し、このたびの承認に至りました。

私の経験ではタルクの効果はピシバニールと同等以上ですが、発熱や痛みなどの副作用は明らかに少なく、程度も軽いため使いやすいという印象を持っています。先生方の使用経験をお聞かせください。

宮澤(秀) われわれは2008年からタルクを個人輸入して使っていますが、発熱と痛みに関しては看護師によるVAS(Visual Analogue Scale)で見ておりますが、ピシバニールに比べ有意に低いということで、副作用に関しては安心できる治療薬だと思います。効果に関しましては、直接比較はしておりませんが、ほぼ同等であると感じています。

 やはり肺の再膨張を確認した上で使用することが重要ですね。

金沢 私が指導医の下でタルクを使い始めたときは、有害事象として急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に注意といわれており、慎重に使っていました。しかし、経験を積むに従いピシバニールで経験したような疼痛や発熱などの発現頻度は低く、安全に使えることが分かり、今では積極的に使うようになりました。

宮澤(輝) 当科には、婦人科や乳腺外科などから悪性胸水の症例が紹介されることが多いのですが、よくタルクを使っています。痛みが少ないので、高熱もなく患者の評判も良好です。

滅菌調整タルクは他剤無効例にも効果が期待できる

 他剤で効かなかった症例にはどうですか?

石井 ピシバニールでコントロールできない症例に使ったことがありますが、肺が広がる症例は良好な癒着効果を期待できると感じています。

宮澤(輝) 当科には、ピシバニールなどで癒着に失敗した症例も紹介されます。中には両側胸水のケースもありますが、そういう症例もタルクで癒着させることが可能でした

宮澤(秀) 重複症例というのは必ずあって、ピシバニール、ミノマイシンを2回ずつやって癒着できなかった症例にタルクを2週間後に投与したのですが癒着に成功した経験があります。

 パフォーマンスステータス(PS)が悪い症例や高齢者に対してはいかがでしょうか。

宮澤(輝) PSに関係なく使っていますが、80歳以上の高齢者では、通常量のタルクを投与すると効果が強過ぎて呼吸不全などを来す恐れがあるため、半量で使っています。注意が必要です。

 タルク投与後に手術が必要となった場合、タルクの使用がその後の手術に影響を及ぼすことはないでしょうか。

宮澤(秀) タルクによる癒着は、ピシバニールなどによる癒着よりも強いという印象を持っています。例えば、右上葉区域切除後の肺瘻**をタルクで治療後に中葉に肺癌が再発したため、それを切除しようとしたところ、肺が石のように硬くてなかなか取れなかった症例を経験しています。ピシバニール、ミノマイシン投与後に手術した症例もありますが、比較的線維性でサクサクと剥がれました。

* 用法・用量に関する使用上の注意:有効性および安全性は確立していない。
** 肺瘻はユニタルク胸膜腔内注入用懸濁剤4gの適応ではありません。

滅菌調整タルク投与後は懸濁液が行き渡るよう体位変換を

 治験では、疼痛を抑えるための前処置として麻酔薬であるリドカインを胸膜腔内に注入しました。この点についてはいかがお考えでしょうか。

宮澤(秀) 私たちはタルクを胸腔内噴霧法で投与していますが、胸腔鏡を行うと胸壁側にかなり痛みを伴いますので、麻酔薬と鎮痛薬による前処置をしています。麻酔薬として0.5%ブピバカイン20ccを原液のまま胸腔内に入れ、鎮痛薬としてペンタゾシンを筋注または静注しています。

宮澤(輝) タルクは痛みや発熱が少なく、それだけでも意味があると思いますが、それでも痛みや発熱が出ることがありますからね。

 痛みや発熱に対してどのように対応されますか。

宮澤(輝) 鎮痛薬や解熱薬による対症療法です。それで対応できています。

石井 治験のときの疼痛はどうでしたか。

 グレード1の発熱・疼痛はかなりの頻度で認められましたが、特に問題になるようなものはあまり認められませんでした。タルクの投与法としては胸腔内噴霧法と胸腔内懸濁液注入法(スラリー法)がありますが、それらの有効性の差を示すデータはありません。治験ではスラリー法を採用したのですが、投与後は懸濁液が行き渡りやすいように、15分ごとの体位変換を2時間行いました。この点はいかがですか。

石井 他の癒着剤の場合ですが、以前は体位変換していました。しかし、肺が広がれば全体に行き渡っているはずなので、あまり厳密にやる必要はないという考え方が主流になってきているようです。ただ、それについての十分なエビデンスはありません。

金沢 体位変換によりどれだけ効果に差が出るのかは分かりませんが、できるだけ行うようにしています。

宮澤(輝) 欧米の先生は体位変換をする必要はないといいますが、した方が肺尖部などまで満遍なく行き渡りやすいように思います。

宮澤(秀) そうですね。胸膜が被包化した症例などタルクを接着剤と考えると、やはり体位変換した方がよいと思います。

※ ユニタルク胸膜腔内注入用懸濁剤4g投与法は胸膜腔内懸濁液注入法(スラリー法)のみです。

抗癌剤はタルク投与後1週間空けて投与

 治験ではタルク投与後の抗癌剤の投与は1週間空けています。この点についてはいかがですか。

宮澤(輝) 間を置かずに投与するとリスクが高まるでしょうし、ステント留置の場合も1週間空けて抗癌剤を投与しますから妥当だと思います。

石井 タルクで癒着してドレーンを抜くまでに1週間ほどかかりますし、それでよいと思います。ただ、小細胞癌で抗癌剤の効果が期待できる場合は、癒着する前に抗癌剤を使うこともあると思います。

金沢 やはりドレーンを留置したまま抗癌剤を投与するのは感染症のリスクやPSにも影響しますし、非小細胞肺癌などでそれほど急ぐ必要はないのであれば、1週間から10日ぐらい空けるということでよいと思います。

 この縛りは、実際の臨床現場ではあまり大きな妨げにはならないだろうということですね。

ARDSの可能性にも注意

 タルク投与により拘束性障害で苦しくなったという患者さんはいらっしゃいますか?

宮澤(秀) 経験はありません。結核の拘束性障害では殻のように石灰化した胸膜があって、それを剝離すると呼吸が改善することがあるのですが、それとタルクによる胸膜の癒着とは違うのかもしれません。ですから、タルクの使用時に拘束性障害をそれほど気にする必要はないのではないかと思っています。

宮澤(輝) 心配ですが、フランスのアストゥール先生がずっと肺機能を追っておられて、拘束性障害が出るかどうか見られたのですが、全然出ていないですね。だから、肺機能はあまり悪化しないと思われます。

 それは非常に興味深いご指摘ですね。有害事象で最も注意したいのは、ARDSなどの急性呼吸不全です。私は3例ほど経験しています。種々の条件が関係しますが、どうお考えですか。

石井 タルク投与によりARDSを経験したことはありませんが、ピシバニールや抗癌剤による癒着の場合でもARDSや薬剤性肺炎を来すことがあり、タルクに限った話ではないと思います。ベースに間質性肺炎があるとか、呼吸機能が悪いとか、癌性リンパ管症を起しているなどの状態が関係するといわれております。現在の滅菌調整タルクでは発症の可能性は低いだろうと思いますが、慎重に行う必要があります。

 ARDSはどの胸膜癒着療法にも共通するということですが、その対応についてはいかがですか。

石井 エビデンスはありませんが、間質性肺炎を合併する癌性胸膜炎症例ではタルクの投与は慎重に行った方がよいと思います。もしも、ARDSを来した場合は、ステロイドを用いて治療することになると思います。

金沢 使用経験が多くないためかもしれませんが、私もARDSの経験はありません。他の先生からも、タルクで困ったという話はあまり聞きません。

 タルクの適正使用が進行癌患者の緩和治療に寄与することを願っています。本日は貴重なご意見どうもありがとうございました。

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