講演会・座談会記録集

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第37回 日本呼吸器内視鏡学会学術集会 ランチョンセミナー1
悪性胸水のコントロール
Management of malignant pleural effusion

2014年4月14日に開催された第37回日本呼吸器内視鏡学会学術集会のランチョンセミナーでは、マルセイユ公立大学のPhilippe Astoul先生が悪性胸水の診断とコントロールに関する治療の現状を解説し、胸膜癒着術に対する滅菌調整タルクの効果と安全性に関するさまざまなエビデンスを紹介した。

(2014年6月作成)


目次

悪性胸水の診断

悪性胸水のコントロールは臨床医にとって深刻な問題である。胸水貯留例の50%以上が悪性であり、多くは予後不良であるため、咳嗽、胸痛、呼吸困難などの症状緩和によるQOL改善が治療の目的となる。
悪性胸水の診断の第1ステップは胸腔穿刺と細胞診による悪性細胞の確認であるが、検体不適正の判定が出ることも多い。また、悪性細胞なしと判定された場合でも、癌が否定できるわけではない。胸腔穿刺による正診率は50~60%程度で、繰り返し穿刺を行っても正診率が向上するわけではない。正診率を左右する要素としては、胸水貯留量、サンプル調製、細胞・病理診断医のスキル、腫瘍タイプ、胸膜局所浸潤などがある。
一方、経皮的胸膜生検は胸腔内に十分なスペースと胸水貯留量が必要である。また、正診率はサンプル数、生検個数、生検針の種類、医師のスキルなどに左右され、当然ながら胸膜組織が採取されている必要があるが、それは簡単なことではない。その結果、経皮的胸膜生検の正診率は悪性胸膜腫で47%、中皮腫でも55%に過ぎないが、CTガイド下生検ではそれぞれ87%、88%と高く(Maskell NA et al. Lancet 2003; 361: 1326-1330)、さらに結節が20mm以上の場合は超音波ガイド下生検の正診率が高いことが報告されている(Diacon AH et al. Respiration 2004; 71: 519-522)。
これに対し、PET検査の正診率は初期の胸膜悪性腫瘍では非常に悪いため、PET陰性でも悪性胸水が必ずしも否定されない。

診断のゴールドスタンダードは胸腔鏡検査

次に、経皮的胸膜生検で確定診断に至らなかった場合、次に何を行うべきかを考えてみたい。
経皮的胸膜生検後に胸腔鏡検査を行った120例の後ろ向き解析では、非特異性炎症と診断されていた66例中32例が悪性であり、生検に胸膜組織が含まれていなかった24例中12例が悪性と判明した(Blanc FX et al. Chest 2002; 121: 1677-1683)。また、胸腔鏡検査は多くの論文で85%以上の正診率が報告されていることから(Janssen JP et al. J Bronchol 2004; 11: 169-174)、悪性胸水の診断におけるgold standardは胸腔鏡検査だと言える。
では、胸腔鏡検査で確定診断に至らない場合はどうだろうか。胸腔鏡検査を受けた患者のうち、29%は確定診断に至らず、4.5%は悪性胸水、すなわち偽陰性であったとの報告がある(Janssen JP et al. J Bronchol 2004; 11: 169-174)。偽陰性例は通常、胸腔鏡検査が困難な症例であることに注意が必要である。ただし、この研究では、偽陰性と判明するまでの期間が腺癌で約4.5カ月、中皮腫が8カ月であり、大きな問題となるものではなかった。

悪性胸水の管理

悪性胸水の診断がついたら、患者の症状や身体機能、余命、腫瘍タイプ等を考慮して治療する必要があるが、化学療法が有効な癌は一部に過ぎない。コントロールに使えるツールとしては、頻回の胸腔穿刺、皮下トンネル型胸腔カテーテル(胸腔カテーテル留置)、胸腔ドレナージチューブ、胸膜癒着術などがある。
胸腔カテーテル留置の効果については、カテーテル挿入後、全般的健康状態、EORTC質問票QLQ-C30およびQLQ-LC13による呼吸困難スコア、MRC息切れスケールが改善したことが報告されている(Sabur NF, et al. Respiration 2013; 85: 36–42)。また、23%でカテーテルが抜去されたが、抜去までの日数(中央値)は54日と長く、それによって高額な排液ボトルが多数必要となることも問題であった。
一方、悪性胸水患者250例に対する胸腔カテーテル留置の検討では、88.8%の患者で完全または部分的な症状コントロールが得られ、42.9%に胸膜の自然癒着が起こり、癒着が起こった患者の全生存期間(OS)中央値は254日と、起こらなかった患者の71日に比べて有意に長かった(P<0.05、Tremblay A, et al. CHEST 2006; 129: 362–368)。 そこで、胸膜腔内にタルク製剤などの胸膜癒着剤を注入して炎症を惹起させ、胸膜癒着を起こす治療は有用と考えられる。呼吸困難の改善を目的とした胸腔カテーテル留置と胸水ドレーン+タルクによる胸膜癒着の効果を比較したランダム化試験では、42日後の呼吸困難、胸痛に差は認めず、生存率も有意差はないものの、タルク群のほうが良好な傾向がみられた (図1)。

胸膜癒着には、①正常な中皮細胞が存在すること、②胸膜層が強固かつ完全に癒着すること、という2つの条件が必要である。そのため、経過の早期に癒着を惹起させる必要がある。また、壁側と臓側の胸膜を強固かつ完全に癒着させるには肺が膨張できること、すなわち「trapped lung」ではないことが求められるが、肺の再膨張を確認する方法として、胸腔穿刺後の胸部X線検査や胸部超音波検査の意義は証明されていない。われわれは臨床においては、患者の胸部不快感等の自覚症状がもっとも有用な確認手段と考えている。

タルク製剤を用いた胸膜癒着術の効果は良好

次に、胸膜癒着を惹起するためには胸膜腔内注入用製剤が必要か、必要であればどの製剤、どの用法が適しているかを考えてみたい。
ランダム化試験のメタ解析では、ドレナージのみの群に比べ、胸膜腔内注入用製剤を用いた群のほうが胸膜癒着の有効性が高く、タルク製剤と他の薬(ブレオマイシン、テトラサイクリン、ムスチンなど)との比較では、タルク製剤のほうが良好であった(図2)。

また、タルク製剤の用法には、胸腔チューブから注入するスラリー法と胸腔鏡下での噴霧法があるが、スラリー法はベッドサイドで実施でき、侵襲が少なく、入院期間も平均5~7日と短いなど、簡便であることから一般的に行われている。さらに、スラリー法は胸膜カテーテル留置法と較べて効果が高く、費用対効果も優ることが示されている(Olden AM, et al. J Palliat Med 2010; 13: 59-65)。
一方、スラリー法と噴霧法のランダム化比較試験によると、生存率と悪性胸水再発までの期間に有意差は見られなかったが、肺癌・乳癌患者に限ると無再発生存率は噴霧法のほうが良好であった(Dresler CM et al. Chest 2005; 127: 909-915)。

本邦では胸膜癒着を目的とした効能・効果を有していません。
国内未承認の用法です。
ユニタルク胸膜腔内注入用懸濁剤4gの用法は胸膜腔内懸濁液注入法(スラリー法)のみです。

粒子径が約30μmに調整された粒子径調整タルクは胸膜癒着術のgold standard

現在日本で承認され、使用されている滅菌調整タルクは粒子径を約30μmに調整したもので、5μm未満の小さな粒子の含有率は5%未満である。効能・効果は悪性胸水の再貯留抑制であるが、欧州では再発性自然気胸の治療にも使用されている。副作用として発熱や疼痛があるが、これは胸膜癒着の過程で炎症が惹起されたことを意味しているため、良好な反応と言える。
重大な副作用として急性呼吸窮迫症候群(ARDS)があるが、その頻度は0~30%と報告によって大きく異なり(Rhese D. Am J Surg. 1999; 177: 437-440)、Sahnらはタルクの用量にかかわらず、ARDSの発現率は0.71%であったと報告している(Sahn S et al. AJRCCM 2000; 162: 2023-2024)。
タルク粒子が全身に分布するとの報告もあるが、われわれの検討では他臓器への分布は認めていない(Fraticelli A, et al. Chest 2003; 122: 1737-1741)。この違いは粒子径の違いによると考えられる。粒子径の小さいタルク(10μm未満の含有率が50%以上)は死亡率が高いことや(Arellano-Orden E, et al. Respiration 2013; 86: 201-209)小さい粒子を含む製剤に比べ、粒子径が平均25μm以上の製剤(粒子径調整タルク)のほうが全身性炎症が弱く、ガス交換が良好であることが確認されている(図3)。

われわれは世界13施設558例を対象に、粒子径調整タルクを用いた噴霧法による胸膜癒着術の安全性を検討したところ、ARDSは1例も認めず、30日以内に死亡した11例(2%)は悪性腫瘍の進行によるものであったことから()、粒子径調整タルクを用いた胸膜癒着術は安全であり、ARDSとは関連しないと結論された。
以上のことから、粒子径調整タルクは胸膜癒着を施術する場合のgold standardだと考えられる。

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