講演会・座談会記録集

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第37回 日本呼吸器内視鏡学会学術集会 共催セミナー
タルクによる胸膜癒着術

2014年4月14日に開催された第37回日本呼吸器内視鏡学会学術集会の共催セミナーでは、マルセイユ公立大学のPhilippe Astoul先生と聖マリアンナ医科大学の石田敦子先生が、胸膜癒着術に対する滅菌調整タルクの国内外のエビデンスおよび実際の使用法を紹介した。

(2014年6月作成)

目次

[講演-①]悪性胸水の管理  Philippe Astoul先生

[講演-②]悪性胸水に対する胸膜癒着術  石田 敦子先生

[質疑応答]

[講演-①]悪性胸水の管理

胸腔穿刺が有効な患者は胸膜癒着術の適応となる可能性大

症状を有する悪性胸水に対しては、まずは胸腔穿刺を試みることが原則である。多くの場合、単回の胸腔穿刺で胸水を除去しても、時間の経過とともに再び貯留が生じるが、その際に最適な治療法を選択するためにも、最初に胸腔穿刺に対する応答を確認しておくことが大切である(図1)。

胸腔穿刺に応答して症状の緩和が得られた患者であれば、胸膜癒着術の施行を考慮しうる。胸膜癒着術は、胸腔チューブや胸腔鏡を使って胸腔内に癒着剤を投与し、人為的に炎症を起こして胸膜を癒着させることにより、胸水が貯留するスペースを減少させるという治療法である。胸腔ドレナージのみを行った場合に比べ、胸水の再貯留が抑制されることが確認されている。
ただし、肺が器質的変化をきたして再膨張能が損なわれた“trapped lung”の状態にある患者では胸膜癒着術の効果は望めない。また、全身状態が不良な患者や予測される生命予後が短い患者も対象とならない。その場合は、胸腔穿刺の再施行やカテーテル留置下での持続的ドレナージなど、別の選択肢を考えるべきである。

胸膜癒着剤のgold standardは大きい粒子径のタルク製剤

胸膜癒着術に用いられる癒着剤には、gold standardであるタルクのほか、ブレオマイシンやシスプラチンなどの抗癌剤、テトラサイクリン系抗菌薬などがある。英国のTanらは、31報の無作為化比較試験をメタ解析し、種々の胸膜癒着剤の効果を比較したが、これにより最も胸水再貯留抑制効果に優れる傾向にあった薬剤はタルクであった(図2)(Tan C, et al. EJCTS. 2006; 29: 820-838)。

タルクは主としてケイ酸マグネシウムからなる鉱物であり、世界各地の鉱山で採掘されており、鉱石を精製・粉砕した製剤が医療用に供されている。しかし、精製技術がさほど高くなかった30年ほど前までは、一部の製剤にアスベストが混入しており、その製剤を使用した患者が後年に中皮腫を発症する事態となった。だが、現在のタルク製剤はアスベストを含有しない。
また、タルク製剤の粒子径も製造元によって異なっている(表1)。

そのなかで、粒子径5μm以下の小さなタルクは胸膜腔外組織にも分布しやすく、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの重篤な有害事象のリスクを高める可能性が指摘されている。フランスNovatech社製のタルク製剤は小さな粒子径のタルクを取り除き、粒子径を調整しているので、安全性は高いと考えられている。実際、われわれが行った前向きコホート研究・SOTIM studyでは、558例全例に平均粒子径24.5μmのフランス製タルク製剤が投与されていたが、ARDSの発症は認められなかった(表2)。
また、炎症に伴う体温上昇も臨床的に問題となるレベルではなく、数日で速やかに低下した(図3)。

本邦では胸膜癒着を目的とした効能・効果を有していません。

日本の製剤・日本の投与法でも同様の効果と安全性が期待できる

このように、粒子径の大きなタルク製剤による胸膜癒着術は、悪性胸水に対する有用な治療であると考えられる。このほど承認された日本のタルク製剤もフランス製と同様粒子径が大きく調整した製剤であるということなので、リスクは低いと思われる。
なお、SOTIM studyでは、胸腔鏡下でタルク粉末を散布する噴霧法でタルクが投与されている。この噴霧法は現在日本では保険適応外であるが、タルク懸濁液を注入するスラリー法でも効果に大きな違いはない。注意すべきことは、スラリー法による投与時には胸膜腔下方にタルクが集積しやすい傾向がシンチグラムにて認められていることである。これは、解剖学的な特徴によるものであるが、胸膜腔上方には十分量のタルクを行き渡らせることを留意して手技を行っていただきたい。

[講演-②]悪性胸水に対する胸膜癒着術

滅菌調整タルクの導入により胸膜癒着術の成績は飛躍的に向上

胸膜癒着術は、コントロールが難しい悪性胸水に対する有力な治療選択肢のひとつである。その際に用いられる癒着剤のなかでも、タルクは最も効果的で比較的副作用が少なく、とくに英語圏の諸国では約70%もの医師に頻用される世界標準の薬剤である(表1)。

わが国では、長年にわたりOK-432製剤が悪性胸水への適応をもつ唯一の胸膜癒着剤として使用されてきた。しかしながら、同剤による胸膜癒着術施行時には発熱や胸痛が高率でみられるため、患者の選択には慎重を期す必要があり、より安全な癒着剤の登場が望まれていた。そこでわれわれは、世界標準とされているタルクを2007年より試験的に導入し、これによる悪性胸水の治療を開始した。
われわれが使用したタルク製剤は、Astoul氏の講演でも登場したフランス製の製剤である。この製剤4gを、胸腔鏡下に散布する噴霧法と生理食塩液に懸濁してチューブから注入するスラリー法のいずれかにより、計57例の悪性胸水患者に投与し、30日後、90日後、180日後における有効性と安全性を評価した。その結果、各時点における胸部X線像による判定での有効率は、それぞれ90.6%、80.9%、76.1%であり、患者の4人に3人は癒着から半年後でも胸水の再貯留がみられなかった。なお、スラリー法での有効率は88.9%、76.9%、71.1%であった。また、重篤な合併症は1件もなく、38℃以上の発熱や胸痛の発現は、それぞれ10.5%と14.0%であった(表2)(Inoue T, et al. Intern Med 2013; 52: 1173-1176)。

国内未承認の用法です。

日本の実臨床でも「世界標準治療」の実践を

その後、日本でもようやくタルク製剤の国内治験が開始され、その結果を受けて2013年末にユニタルク胸膜腔内注入用懸濁剤4gが上市されたことは周知のとおりである。2009年から2010年にかけて行われた国内第Ⅱ相試験では、6施設・30例の悪性胸水患者に滅菌調整タルク4gが投与され、30日後の胸部X線による評価において83.3%という有効率が確認された(図1)。また、安全性の評価では、CRP上昇が80.0%、発熱が53.3%に認められたが、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発現はみられなかった。

なお、この治験における滅菌調整タルクの投与法は、製剤を生理食塩液50mLで懸濁し、チューブを用いて胸膜腔内に注入するスラリー法で統一されており、承認もこの用法・用量で受けている。また、治療の成否を判定する際には、本治験の効果判定に用いられた胸部X線や自覚症状で評価する。参考までに、典型的な有効例と無効例の胸膜癒着術施行前とドレナージ後、術後1ヵ月目の胸部X線像を示す(図2,3)。図2のように、1ヵ月後にも胸水の貯留がほとんど認められなければ有効と考えられるが、図3のように胸水の再貯留が認められる症例は無効例であり、再度の胸水ドレナージが必要となる。こうした情報を参考に、ようやく日本でも可能となった悪性胸水に対する世界の標準治療をぜひとも実践していただきたい。

[質疑応答]

Q:
ユニタルクのDrug Informationには、懸濁液を胸膜腔内に行き渡らせるために「15分ごとに患者の体位を変換することが望ましい」と書かれております。しかし海外の論文を参照すると、必ずしもその有用性は明らかではないようですが、やはり体位変換の実施は必要でしょうか?
A:
たしかに「体位変換をしなくても成績は変わらない」という論文はありますが、今のところ少数例での検討であり、明確な結論は得られておりません。したがって、現段階では「体位変換を行わなくてよい」とは断言できず、体位変換は実施することが推奨されます。
Q:
タルク懸濁液の注入に用いる胸腔チューブは、どの程度の口径のものが適切とお考えですか?
A:
ユニタルクはOK-432製剤と異なり水溶性ではないため、ある程度の太さのものが必要です。少なくとも16Fr以上のダブルルーメンが望ましいと思われます。
●ユニタルクの効能・効果:悪性胸水の再貯留抑制
●ユニタルクの用法・用量:通常、成人には4gを生理食塩液50mLで懸濁して、胸膜空内に注入する。
●詳細は、添付文書をご参照ください。
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