講演会・座談会記録集

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第55回 日本肺癌学会学術集会 ランチョンセミナー8
悪性胸水に対する胸膜癒着術

坂 英雄 先生(国立病院機構名古屋医療センター がん総合診療部長) 石田 敦子 先生(聖マリアンナ医科大学呼吸器・感染症内科 講師)

海外において悪性胸水治療に広く使用されてきたタルク製剤が我が国で承認されてから1年が過ぎた。本ランチョンセミナーでは、早くから同剤に注目してきた石田敦子先生を講師に迎え、タルク製剤の特徴および海外における使用法とエビデンス、国内における使用法についてご講演いただいた。

(2015年3月作成)


目次

悪性胸水治療におけるタルク製剤での胸膜癒着術

タルクは分子式Mg3Si4O10(OH)2で表されるケイ酸塩鉱物であり、胸腔内に投与することによって人為的に胸膜炎を惹起し、胸膜の癒着を導く。悪性胸水の原因として最も多いのは肺がんで、乳がん、リンパ腫が続く(図1)。悪性胸水は繰り返し貯留したり症状をきたさない場合は穿刺排液のみで様子観察で良いが、症状をきたしたりコントロールが難しい胸水に対しては胸腔ドレナージを行い、胸部X線写真で肺が十分に再膨張すれば胸膜癒着術が検討される(図2)。胸膜癒着術適応例と不適応例のX線写真を示す。胸膜癒着術適応例では肺の再膨張がみられる(図3)。

悪性胸水治療において、タルクによる胸膜癒着術は胸水再貯留および重篤な副作用が少ないことから、海外では広く実施されており、エビデンスの蓄積がなされている。胸膜癒着に使用される薬剤として、世界ではミノサイクリン、テトラサイクリン、タルク、ブレオマイシン、シスプラチンなどが使用されており、その中でタルクは有効率90%以上と最も効果的と考えられている。また胸膜癒着の際には疼痛や発熱などの副作用がみられることが多いが、タルクは他の薬剤と比較し、それらの副作用が少ない(表1)。また、British Thoracic Society (BTS)のガイドラインによると、タルクの粉末を生理食塩液に懸濁して使用するスラリー法あるいは粉末を胸腔鏡下に投与する噴霧法(我が国では適応がありません)によるタルクの有効率は90%と、タルクが他剤に比較しより有効であると紹介されている(表2)。また、タルクには悪性胸膜中皮腫細胞のアポトーシス誘導作用の報告もある(Nasreen N, et al. Am J Respir Crit Care Med 2000; 161: 595-600)。

※ユニタルク®添付文書
【用法・用量】 通常、成人には、本剤(4g/バイアル)を日局生理食塩液50mLで懸濁して、胸膜腔内に注入する。

§ ミノサイクリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、Corynebacterium parvum、ブレオマイシン、ドキソルビシン、シスプラチン、シタラビンは本邦では胸膜癒着を目的とした効能・効果を有していません。

※ユニタルク®添付文書
【用法・用量】 通常、成人には、本剤(4g/バイアル)を日局生理食塩液50mLで懸濁して、胸膜腔内に注入する。

¶ テトラサイクリン、ブレオマイシン、ドキシサイクリンは本邦では胸膜癒着を目的とした効能・効果を有していません。

しかし、1990年代の終わり頃より、タルクによる胸膜癒着術実施後の患者に高率で急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発症がみられるとの報告が相次ぎ、米国からの臨床報告では一時タルクを用いた胸膜癒着術実施に関する警告が出されることとなった。一方で、ARDS発症に関する報告のほとんどは米国のものであり、米国においては他の主要諸国の製剤に比べて粒子径の小さい粒子を含むタルク製剤(Mixed Talc)が主に使用されていたことが判明している(Ferrer J, et al. Chest 2001;119:1901-1905)。粒子径が小さければ、胸膜腔以外の組織にも取り込まれ、炎症を生じるリスクも高くなる。逆にいえば、粒子径を調整し(Graded Talc)小さい粒子を取り除いたタルク製剤であれば、ARDSのような非局所的な有害事象を生じるリスクは低いと考えられる。
そこでJanssenらは、粒子径を調整したフランス製のタルク製剤を用いた欧州を中心とした14施設の国際共同前向き研究を行った(Janssen JP, et al. Lancet 2007;369:1535-1539)。その結果、全558例の患者の中で、胸膜癒着術後にARDSの発症をみた患者は1例もなく、その安全性が確認された。2013年我が国で承認されたタルク製剤(ユニタルク®)もまた、フランス製のタルク製剤である。

タルク製剤の投与はスラリー法(懸濁法)で国内承認

我が国で承認されているタルクの投与法は、タルク製剤を生理食塩液に懸濁したタルク懸濁液をドレナージチューブで投与するスラリー法と呼ばれる方法である。一方、海外ではスラリー法のほかに、タルクを粉末のまま胸腔鏡下で噴霧する胸腔鏡下噴霧法*という方法も認められている。胸腔鏡下噴霧法は、呼吸器内科医が日常的に胸腔鏡を使っているフランスやドイツなどで頻用されるが、歴史的に呼吸器内科医が胸腔鏡治療に携わることが少ない米国や英国などではスラリー法が一般的な投与法である。

※ユニタルク®添付文書

7.適用上の注意(抜粋)

(1)投与(注入)経路
本剤は胸膜腔内注入のみに使用し、他のいかなる注射経路(静脈内、筋肉内、皮下、皮内等)にも投与しないこと。また、本剤を懸濁液としないで直接胸膜腔内に噴霧する方法では、使用しないこと。

Haddadらが行ったスラリー法でのタルク投与試験(Haddad FJ, et al. World J Surg 2004; 28: 749-753)では、胸膜癒着術後180日後の無再発生存率は72.8%という結果が得られた(図4)。

われわれは悪性胸水の患者57人を対象にタルクによる胸膜癒着術を胸腔鏡下噴霧法(我が国では適応がありません)あるいはスラリー法で実施した。胸部X線画像により評価した胸膜癒着術の成功率は、術後30日で90.6%、90日で80.9%、180日で76.1%であった。タルクの胸膜癒着術後の合併症は発熱10.5%、胸痛14.0%で、重篤な合併症の報告はなかった(Inoue T, et al. Intern Med 2013; 52: 1173-1176)。
また、ユニタルク®国内第Ⅱ相試験では、スラリー法による30日後の再発抑制率は83.3%という結果であった(図5)。
このように、スラリー法によるタルク投与法のエビデンスが国内外で得られているため、我が国で承認されたスラリー法によるタルク投与は悪性胸水治療において有効であると考えられる。

座長コメント

本日は、タルク製剤の海外のエビデンスと国内における投与法に関する広範な話題を石田先生に簡潔にまとめていただいた。これに関連し、この場を借りて、現在西日本がん研究機構(West Japan Oncology Group:WJOG)にて計画中の臨床試験について少々ご紹介させていただきたい。試験名は「がん性胸膜炎に対する胸膜癒着療法のランダム化比較第3相試験:滅菌調整タルクvs. OK-432 (J-PLEURA、多施設共同臨床試験)」であり、スラリー法にてタルクを投与し、主要評価項目は30日目までの胸水再貯留である。

†ユニタルク®添付文書

【効能・効果】 悪性胸水の再貯留抑制

《効能・効果に関連する使用上の注意》 本剤は悪性胸水の再貯留抑制のために使用し、腹水の減少を目的として本剤を使用しないこと。

‡ピシバニール®添付文書

【効能・効果】(抜粋) 消化器癌患者及び肺癌患者における癌性胸・腹水の減少

質疑応答

Q:
タルクの投与後、患者の体位変換**は必要ですか?
A:
タルクに限らずドレーンを通して胸膜癒着剤を投与する場合には体位変換をすることが望ましいという報告がある一方、体位変換は不要であるという報告もあり、結論には至っておりません。ただし、タルクは水溶性ではなく、懸濁液の状態で投与を行うことから、たとえば仰臥位で投与した場合は背中側に貯留してしまう可能性もあります。そのため現時点では、全体に懸濁液を行き渡らせるために体位変換を行うことが望ましいと考えており、15分おきに2時間(計8回)体位変換を行っています。
なお、ユニタルク®の添付文書にも、「可能な姿勢の範囲で15分毎に、クランプを外すまで患者の体位を変換することが望ましい」と記載されています。
Q:
ユニタルク®はPS(Performance Status)が悪い症例、高齢者には使いやすいでしょうか?
A:
ユニタルク®は発熱の程度、頻度ともに少ないという印象です。発熱や疼痛はPSを悪化させることがありますが、その他副反応も少なく、PSが悪い患者にも使いやすいと実感しています。
Q:
ユニタルク®の間質性肺炎合併例***への投与はどのようにお考えでしょうか?
A:
喫煙が原因の肺がんには合併例は多く、投与するかしないかは医局での話し合いで決めています。症状の程度、ステロイド治療を行っているかどうかで判断しています。ステロイドが切れない場合が多く、無効な場合もあります。投与する場合には注意を要します。

**ユニタルク®添付文書

7.適用上の注意(抜粋)

(3)投与(注入)方法

3)注入後
クランプ後、懸濁液を胸膜腔内に行き渡らせるように、可能な姿勢の範囲で15分毎に、クランプを外すまで患者の体位を変換することが望ましい。

***ユニタルク®添付文書

【使用上の注意】(抜粋)

1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
肺機能障害のある患者又は心機能障害のある患者
〔呼吸不全等が発現するおそれがある。〕

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