講演会・座談会記録集

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タルク文京カンファレンス
場所:TKPガーデンシティ御茶ノ水(東京都千代田区)(2015年1月24日)

岩崎 吉伸 先生

2013年12月、胸膜癒着術に世界的に広く用いられている滅菌調整タルク製剤(商品名:ユニタルク®)が発売された。国内第Ⅱ相試験では80%以上の有効率が得られ、発熱や疼痛などの副作用も少ないことが報告されている1)
2015年1月24日、東京・御茶ノ水で開催された「タルク文京カンファレンス」では、タルク製剤開発の歴史や開発治験データの紹介、症例報告、特別講演などが行われた後、総合討論が行われた。
その中から、滅菌調整タルク開発治験に関する講演と総合討論の概要を紹介する。

(2015年11月作成)

目次

【講演-①】滅菌調整タルク開発治験について

【講演-②】 総合討論会「胸膜癒着術のUp-To-Date」

[講演-①]滅菌調整タルク開発治験について

演者 : 笹田 真滋 先生(国立がん研究センター中央病院 内視鏡科 医長)

※各先生のご所属・役職名は、カンファレンス開催時のものです。

わが国では胸膜癒着術の標準的治療薬として、OK-432が長らく使用されてきたが、海外の多くの国では滅菌調整タルクが用いられてきた。そこで、滅菌調整タルクを日本に導入するため、医師主導による開発治験(日本医師会治験推進研究事業における)が行われた。
国内第Ⅱ相試験では、癌性胸膜炎を有する悪性胸水患者30例を対象(被験者の平均年齢は61歳、原因疾患は肺癌が76.7% を占めた)に、生理食塩液に懸濁したNPC-05*1 (Steritalc®)をスラリー法にて胸膜腔内に注入し、有効性と安全性が検討された。
その結果、主要評価項目である胸膜癒着術実施30日後の胸水再貯留の有無では83.3%が有効と判定された(図の)。また、呼吸困難の程度は胸水排液開始前に比べ、30日後には有意な改善を認め(P<0.001、二項検定)、グレード0(呼吸困難なし)の割合は排液開始前の13.3%から80.0%に増加した(図の)。同様に、VASで測定した疼痛の程度も30日後には有意に改善した(P=0.022、Wilcoxon 符合付順位検定)。
副作用は30例中27例(90.0%)に認められ、主な副作用はCRP増加(80.0%)、発熱(53.3%)、ALT(GPT)増加(16.7%)、AST(GOT)増加(13.3%)、LDH増加(13.3%)、Al-P増加(13.3%)、便秘(13.3%)、倦怠感(13.3%)、頭痛(10.0%)、アルブミン減少(10.0%)、カリウム増加(10.0%)であった。グレード3以上の副作用は3例(10.0%)であった。
以上のことから、悪性胸水に対するNPC-05(Steritalc®)を用いた胸膜癒着術の有効性および安全性が確認された。

*1:国内第Ⅱ相試験ではフランスのNovatech社から輸入した滅菌調整タルク、NPC-05(Steritalc®)が使用されました。なお、国内一貫製造のユニタルク®とSteritalc®は品質に対する相対比較試験により同等であることが確認されています。

国内第Ⅱ相試験(国内における医師主導治験)

[講演-②]総合討論会「胸膜癒着術のUp-To-Date」

座長 高橋 和久 先生 (順天堂大学大学院医学研究科呼吸器内科学 教授) パネリスト 坂 英雄 先生(国立病院機構 名古屋医療センターがん総合診療部長) 笹田 真滋 先生(国立がん研究センター中央病院内視鏡科 医長) 田中 剛 先生(東京大学医学部附属病院呼吸器内科 特任講師)
  小山 良 先生(順天堂大学大学院医学研究科呼吸器内科学 助教) 宮永 晃彦 先生(日本医科大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野 助教) 坂下 博之 先生(東京医科歯科大学医学部臨床腫瘍学分野 助教)

※各先生のご所属・役職名は、カンファレンス開催時のものです。

日常臨床において胸膜癒着術を行う際のクリニカルクエスチョンは多々ある。その中で、参加ドクターから要望のあった内容について討議した。

胸膜癒着しない症例への再度の胸膜癒着術

胸水が多く、肺が完全に膨張していないために癒着しなかった場合は、医師の裁量で、胸水を減らしてからやむを得ずユニタルク®を再投与*2しますが、完全に膨張しているにもかかわらず癒着しなかった場合はユニタルク®以外の薬剤を試みます。(小山先生)

当院ではユニタルク®を初回治療で使うことが多く、1回で癒着しないこともありますが、一度はユニタルク®の再投与*2を検討します。(宮永先生)

以前はOK-432で癒着しなかった場合、OK-432を再投与していましたが、今後ユニタルク®を初回治療で使う症例が増えると、ユニタルク®を再投与*2するか、OK-432に切り替えるか、状況に応じて選択することになると思います。(坂下先生)

ユニタルク®の場合、多くの症例は、3~7日の間に胸膜癒着剤の再投与*2を行っています。(笹田先生)

当院では、土日を挟むこともあるため、3日から1週間くらいの間隔をあけて再投与*2を試みることが多いです。(坂先生)

当院ではユニタルク®を初回治療に使用しているため、他剤が無効でユニタルク®に切り替えた経験はありません。一方、ユニタルク®による初回治療で癒着しなかった症例は、胸水量が150mL以上であるケースが多かったです。(笹田先生)

米国胸部学会(ATS)のガイドラインでは、24時間のドレナージチューブによる排液量が100~150mL未満の場合には胸腔チューブを抜去し、胸腔ドレナージ開始後48~72時間経過しても排液量が250mL/24時間を超える場合には、最初に使用した量と同量のタルクを再注入*2するよう記載しています。(田中先生)

まとめ

初回治療で上手く癒着させること、そのために最初の手技が一番大事になります。胸膜癒着療法のランダム化比較第Ⅲ相試験(J-Pleura*3)のプロトコールでは、胸膜癒着術後7日間経過した時点で、1日の排液量が150mL以下にならない場合、2回目の注入*2を行う。ただし、3回目の注入は行わない。これに準じると、ユニタルク®で2回目も不成功の場合はOK-432を試みることになると思います。 また、投与間隔は3日~1週間程度が適当と考えられます。しかしながら、再投与*2は承認内容に含まれておらず、添付文書にも再投与*2の「有効性および安全性は確立していない」とあり、この討議は再投与*2を推奨するものではありません。各先生が患者さんのメリットおよびデメリットを勘案のうえ、責任をもって投与していただくようお願いいたします。(坂先生)

*2:ユニタルク®の用法・用量に関連する使用上の注意
2. 同側肺の胸膜腔内に本剤を追加投与(ドレナージチューブ抜管前)又は再投与した場合の有効性及び安全性は確立していない。

(解説)

2.1)再注入することにより投与量が2倍となり急性呼吸窮迫症候群(ARDS)発現リスクが高くなることから、再注入は推奨できないと考える。

*3:J-Pleura:癌性胸膜癒着療法のランダム化比較第Ⅲ相試験:滅菌調整タルクvs.OK-432として西日本がん研究機構(West Japan Oncology Group: WJOG)にて計画中の臨床試験。

間質性肺炎合併例への胸膜癒着剤の投与経験

ユニタルク®は使用しておらず、最近はインフォームドコンセントをしっかり行ったうえで、OK-432以外の他剤を使用することが多いです。(坂下先生)

病状を説明したうえで、OK-432を投与しています。(小山先生)

少量のOK-432を投与した経験がありますが、明らかな間質性肺炎を有する症例にはユニタルク®は投与していません。(笹田先生)

OK-432の添付文書には、副作用として間質性肺炎の発現と増悪が記載されています。ユニタルク®ではそのような記載はありませんが、肺機能障害がある患者さんには慎重投与*4 *5となっています。タルクによる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)発現機序として、小粒子径タルクの全身への移行による炎症反応が考えられていますが2)3)、ユニタルク®の平均粒子径は30μmであり、10μm以下の粒子径をほとんど抑えています。それでも、ARDSを発症することがありますので、慎重に投与すべきだと思います。(坂先生)

まとめ

肺癌に合併する間質性肺炎は多く、胸膜癒着術が必要となることもありますが、薬剤による胸痛や炎症を起こす確率などをよく検討し、十分にインフォームドコンセントを行ったうえで、慎重に投与する必要があると思われます。(笹田先生)

*4:ユニタルク®添付文書 2013年12月改訂(第3版)
慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
肺機能障害のある患者又は心機能障害のある患者[呼吸不全等が発現するおそれがある。]

*5:ユニタルク®添付文書 2015年8 月改訂(第4版)
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
(1)肺機能障害のある患者又は心機能障害のある患者〔呼吸不全等が発現するおそれがある。〕
(2)間質性肺疾患のある患者〔間質性肺疾患が増悪するおそれがある。〕
2. 副作用
(1)重大な副作用(抜粋)
 2)間質性肺疾患(頻度不明注2):間質性肺疾患があらわれることがあるので、咳嗽、呼吸困難、発熱等の臨床症状を十分に観察し、異常が認められた場合には、胸部X線、胸部CT等の検査を実施すること。間質性肺疾患が疑われた場合には、副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。

注2:自発報告において認められている副作用については頻度不明とした。

体位変換*6はどのように行っているか?

当院ではどの薬剤も主治医の判断で体位変換*6を行っています。30分間隔で仰臥位、右側臥位、左側臥位、腹臥位(又は座位)と変換している医師が多いです。(坂下先生)

基本的には15分間隔で体位変換*6を2時間行っています。薬剤による体位変換*6の違いはありません。(宮永先生)

各主治医の判断にもよりますが、基本的に15分間隔で1~2時間、体位変換*6を行っています。ローテーションの回数は患者さんの状況に応じて指示が出ています。(小山先生)

英国胸部学会(BTS)のガイドラインでは、体位変換は必要ないとされており(グレードA)、その理由としてタルクの場合は体位変換*6をしても分布があまり変わらないことが挙げられています4)。当科のマニュアルでは、OK-432の場合、添付文書に記載はありませんが、30分間隔で5つの姿勢をとり、2時間半でドレーンのクランプを開放することになっています。ユニタルク®では添付文書どおり15分間隔で2時間の体位変換*6を行っています。(田中先生)

当院もユニタルク®は添付文書どおり15分間隔で2時間行い、クランプを開放します。(笹田先生、坂先生)

*6:ユニタルク®の適用上の注意
(3)投与(注入)方法
 3)注入後
・クランプ後、懸濁液を胸膜腔内に行き渡らせるように、可能な姿勢の範囲で15分毎に、クランプを外すまで患者の体位を変換することが望ましい。

肺が再膨張しないケースに癒着術を検討するか?

BTSガイドラインでは肺の再膨張が胸膜癒着術の選定条件になっていますが、すべてがそういうケースばかりではありません。再膨張しない場合にはどうなさっていますか?(高橋先生)

再膨張の程度にもよります。再膨張が完全に近い場合は部分癒着でもある程度の症状改善が得られる可能性があるため、癒着術を検討しますが、それ以外の方法、例えばベバシズマブなども検討します。(坂下先生)

部分癒着が期待できる場合は癒着術を行っていますが、全く膨張しない場合はベバシズマブなどを検討します。(宮永先生)

部分癒着は何を目的とするかが重要です。部分癒着でもメリットがある場合、例えば帰宅が目的の場合などは、癒着術を検討してよいと考えます。(小山先生)

肺がある程度膨張し、胸壁に付くような状況でなければ、これまでは癒着術は検討していませんでした。(田中先生)

症状改善の目的であれば検討します。部分癒着を含めると、これまで約半数に何らかの効果を認めました。(笹田先生)

他によい方法がないため、少しでも膨張すれば一度は癒着術を試みることが多いです。(坂先生)

総括

胸膜癒着術に世界的に広く使用されているユニタルク®が発売され、臨床使用された先生方はその有効性を実感されているようです。発熱や疼痛、間質性肺炎などの副作用が少ない薬剤はQOL向上が期待できます。
WJOGではOK-432とユニタルク®を直接比較する試験を開始しますし、難治性気胸への効能追加も望まれています。今後ますます期待される薬剤だと思います。(高橋先生)

1)ユニタルク®承認時評価資料
2)Maskell NA, et al. Am J Respir Crit Care Med 2004; 170: 377-382
3)Noppen M, Eur Respir J 2007; 29: 619-621
4)Mager HJ, et al. Lung Cancer 2002; 36: 77-81

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