講演会・座談会記録集

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第23回 日本乳癌学会学術総会 ランチョンセミナー22

悪性胸水に対する胸膜癒着術

— 乳癌患者における胸膜癒着術の実際 —

座長:沢田先生 演者:谷野先生

2015年7月4日に開催された第23回日本乳癌学会学術総会のランチョンセミナーでは、北里大学病院乳腺・甲状腺外科の谷野裕一先生が「悪性胸水に対する胸膜癒着術」について、とくに乳癌患者におけるタルクによる胸膜癒着術の実際を中心に講演された。

(2015年11月作成)

目次

乳癌による悪性胸水

悪性胸水の原因疾患として、乳癌は肺癌に次いで多い(表1)。悪性胸水の治療は侵襲によって分けられるが、日本肺癌学会の肺癌診療ガイドライン(2014年版)では、胸水貯留を認め、症状を伴う癌性胸膜炎に対して胸腔持続ドレナージが推奨されており、胸腔ドレナージ後には胸膜癒着術の施行が勧められている。胸膜癒着術において本邦で多用されている癒着剤は、OK-432(ピシバニール®)と滅菌調整タルク(ユニタルク®)である。ユニタルク®の効能・効果は「悪性胸水の再貯留抑制」であり、乳癌を含め、癌種を問わず、様々な癌が原因となる悪性胸水への対応が可能である。

ユニタルク®の有効性

癌性胸膜炎患者30例を対象に行われたNPC-05の国内第Ⅱ相試験では、30日後の有効率が83.3% (25/30例)で(図1)、呼吸困難や胸痛の改善が認められた。また、原因疾患別にみたNPC-05の有効率では、症例数は少ないが、乳癌で2例とも有効であった(表2)。

タルクの粒子径と多臓器への拡散

一口にタルクといっても様々な粒子径の製品がある。本邦で使用されているユニタルク®は、フランス製のSteritalc®と同じ滅菌調整タルクであり、米国製の小粒子径タルクに比べて約3倍の粒子径である(図2)。 胸水は胸膜の毛細血管、肺の間質、胸腔内リンパ組織や血管などから産生され胸腔に貯留するが、壁側胸膜には胸水が吸収されるリンパ管の開口部(stoma)が存在する。stomaの直径は約6µmだが、胸膜腔内に癒着剤を注入する胸膜癒着術においてはこの大きさが重要になる。小粒子径タルクや水溶性の癒着剤はstomaを通過し、リンパ流に乗って全身の臓器に拡散することが指摘されている(図3)。

小粒子タルクが全身に拡散することにより、全身性の炎症反応が惹起されたり、PaO2(動脈血酸素分圧)の低下を認める患者が多いとされているが、NPC-05(滅菌調整タルク)の場合はこうした症状の発現は少ないことが報告されている(Maskell et al. : Am J Respir Crit Care Med 2004; 170: 377-382)。また、NPC-05の臓器分布は、肺、胸壁、横隔膜や心膜の表面への移行は認めるものの、他の臓器ではほとんど認められない(Fraticelli A et al.: CHEST 2002; 122: 1737-1741)。

ユニタルク®による胸膜癒着術の実際

タルクによる胸膜癒着術は、一般に英国胸部疾患学会(BTS)の「悪性胸水の管理」ガイドラインをベースとして施行されているが、当院における実施方法を紹介する。

ドレーンの挿入と排液

20F(圏内第Ⅱ相試験では16~24F)のダブル・ ルーメン胸腔内ドレナージチューブを挿入し、正面、側面のレントゲンを見て長さを調節し、排液は1日1,000mLまでとする。
-10cmHgで吸引してCTで肺の拡張を確認して、拡張していない場合には数日おいて、拡張を確認できたら胸膜癒着術を行うようにしている。

薬剤注入とドレーン抜去

疼痛軽減のために1%塩酸リドカイン10~20mL(国内第Ⅱ相試験では1%塩酸リドカイン10mL)を胸膜腔内に前投薬し、10分待ってからユニタルク®懸濁液を胸膜腔内に緩徐に注入する。10~15分ごとに体位変換して、懸濁液を胸膜腔にまんべんなく行きわたらせる。2時間後にクランプを開放して懸濁液を排液する。その後1日の排液量が150mL以下になった時点で抜去する。胸腔ドレーンの抜去は十分に排液をして、癒着を確認してから抜くことが重要である。

谷野先生ご提供資料

質疑応答

Q:
ドレーンを挿入する適応は、どのように決めているのでしょうか。
A:
排液しでも、Trapped lung (肺の拡張不全)がある場合はなかなか適応になりません。また、もともと肺が癒着していて、ドレーンを入れること自体が困難になっている症例については避けるべきと思います。
Q:
再発例などでは、胸部レントゲンだけでなくて、CTを撮ってから適応を決めた方が良いのでしょうか。
A:
排液前には癒着している部分が無いか、排液後にはTrapped lungが無いか等の確認のために、CT撮影は不可欠と考えます。
Q:
ダブルルーメン側管の側孔はいくつか聞けた方がより良いということはあるのでしょうか。
A:
カテーテルの先端から10~15cmくらいのところに一つ開けておくことで十分だと思います。体の大きさにもよりますが、側孔が胸腔から出ないように、あまり下方に開けすぎないように気をつけます。
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